NOSAI執筆記事「おかあさんの農業教室」⑪

農業共済新聞(平成29年3月8日号)
弊社代表取締役の原田佑嗣が執筆した記事のご紹介です。

4月から連載してきたお母さんの農業教室も今回が最終回となりました。

知識的な観点から執筆をさせて頂くことが多かったですが、やはり農業経営をよくするためには、断片的な知識よりも農業者の心構え(マインドセット)が最も大切なのは言うまでもありません。

職業柄、事業の採算性を常に意識しますが、「農業」という分野は補助金や助成金が入るケースも多いことから、事業性が見通しにくく、適切な意思決定がされにくい傾向が強いと感じています。そのため、農業者向けの研修でお話させて頂くときはいつも「現状を正しく把握することの必要性」を特に強調してお伝えしています。

たとえば、家族を使用人として経営している場合、節税や手続上の便宜から1ヶ月8万円という金額でその労働対価とするケールが散見されます。しかし、労働実態はというと1ヶ月の労働時間が200時間前後に及ぶことも珍しくなく、申告主体の所得が経営実態を正確に反映しているとは言い難いことが多いです。

また、多品目生産をしている農業者は、各作物別の原価が分からなければ、作物別の利益が把握できませんが、実践されているケースはほとんどなく、採算を度外視した中で、作付計画が立てられ、実際の作付が継続しているとのが実態となっています。

今月15日で平成28年の所得税の申告納付期限は終了しますが、せっかく集計した数字を単に税額確定だけの手続に終わるのは勿体ないです。今後の経営改善に活かすために、経営実態を把握すべきという視点を是非持ってもらえたらと思っています。

連作障害や自然リスクの分散など、採算性だけを追求しにくい産業であることも事実かと思いますが、大切なことは持続可能な営農モデルを確立するために合理的な意思決定を行おうとするマインドセットです。

先の例では実際の労働時間に基づいた賃金を支払っていたらどうなっていたか、後の例では例えば最初から損を出しているような作物を作付していないか、といったことを概算でいいので、計算してみようと思うことが大切です。皆様の今後益々のご発展を祈念しております。 

(原田佑嗣 公認会計士・税理士 ㈱就農・離農コンサルティング代表取締役)

日本経済新聞記事

弊社の取り組みが掲載された記事のご紹介です。(平成29年2月4日朝刊)

「コメ農家の離農止まらず 水田委託、受け手も限界」

コメ農家の離農が止まらない。日本の食を支える農家の平均年齢は70歳を超えた。引退を決めた農家は所有農地での作付けを委託する引き受け農家を急いで探すものの、請負農地が増えすぎて、受け手側の限界は近い。来年の生産調整(減反)廃止を引き金にした大量離農時代の到来が懸念される。

鎌田敦子さん(74)は千葉県君津市の農家に嫁いで、およそ半世紀にわたってコメづくりをしてきた。5年ほど前、夫が体調を崩してからは老体にムチを打ってきたが、「田んぼの水の管理もできなくなった」。2016年秋の収穫を終えると、「もう無理」と離農を決めた。

「跡継ぎはいない」。市役所に相談を持ちかけ近隣の農家へ管理を委託した。鎌田さんの水田を借りてコメを作ることになった榎本富美雄さんは「最近、請け負う田んぼが増えてきた」とぼやく。減反が廃止される来年は「持ち込まれる話はもっと多くなる」とみる。

同じような光景が各地のコメどころで起きている。農林水産省によると、コメを主に作付けする農家は15年時点で62万戸と15年間で半減した。離農の原因は高齢化がほとんどという。減反の廃止によるコメの自由化は高齢農家に競争激化を意識させ、作付けをやめる口実になりやすい。

離農後の遊休農地を仲介する「農地バンク(農地中間管理機構)」。2年目にあたる15年度の農地の貸し出し面積は7万7千ヘクタールで、政府の年間目標(14万ヘクタール)には届かなかった。原因はどこにあるのか。

コメどころ、新潟県南魚沼市。上越新幹線の浦佐駅から車でうねる山間道を抜けると、風光明媚(めいび)な棚田が見える。ここでコメを作る佐藤政雄さんは農事組合で30ヘクタールを作付けする。「毎年3~4農家はやめていくかな」と離農者から水田を引き受けている。

山間地は寒暖差が大きく、おいしいコメができるといわれるが平地の水田に比べると生産効率は悪い。「これからもっと離農者は増える。でも、これ以上は請け負えない」とこぼす。さらに耕作面積を広げると逆に採算が悪化する。

ただ離農をチャンスに変えようと新たな動きも出始めた。公認会計士の原田佑嗣さんは監査法人のトーマツから独立して離農コンサルティングを手がける。離農者の農地や農業機械の価値を査定し、後継者を選定する。離農後の生活設計や資金計画も助言する。

離農者の農地を十把ひとからげにするのではない。農地の生産性や場所などを考慮して、どうすれば事業を継承できるか見抜いたうえで引き受け手の農業法人を探る。「農地バンクがやろうとしていることはわかるが、(農家の)生産性まで踏み込んで考えていない」

離農者は増え続ける。原田さんは「離農希望者の情報を集めて、次代への橋渡しをしたい」と力を込める。